火星砂漠研究基地MDRSでの風船による地形空撮は、Team Nippon (Crew165)の実験テーマの1つです。私は日本での支援担当です。2015-2016年度は、ドローンの使用が禁止になったので、風船を利用した模擬火星地形の観測について検討しました。ローバの運用と上空からの運用支援検討のための予備実験です。

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火星気球と火星ローバの連携運用概念図
30メートル上空ぐらいから小さな丘の向こう側の地形を事前に観測することを目標にしています。今回の実験では、模擬地形作成のために上空から写真を撮ること、および表面の状態を観測することを目的にしています。

以下は、小中学生の理科実験程度の計算です。

1.風船による浮力の計算

0℃、1 atmのとき密度は
 ヘリウムガス 0.1786 g/L
 空気 1.293 g/L

 差(浮力) 1.1144 g/L

直径28cmの風船の体積 V=4/3 x 3.14 x 14^3 = 11488 (cm3) 約11.5 L
ただし、ボンベの中のヘリウムガスは9.5Lなので、浮力は1.1144 g/L x 9.5 L = 10.5 (g)

 風船と取り付け部分(糸や袋)の質量 4 (g)
 おもり用の妖怪メダル1枚 4 (g)

実験では妖怪メダルを入れない場合には浮き上がりましたが、1個入れた場合には浮き上がりませんでした。
全体質量8(g)  <  浮力10.5(g)のはずだが  (充てん時に少しヘリウムガスが漏れた・・・)

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妖怪メダル なし 天井へ

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妖怪メダル 1枚(4g) 床へ落ちた

2.カメラの搭載について
仮に100g程度(GoPro HERO4 Session, 74g)の小型カメラを上空に上げたいと思った場合、100(L)ぐらいのヘリウムガスを充てんする必要があります。そのとき直径60cmぐらいの風船が必要になります。

大型風船を日本国内で購入し、事前に大容量のヘリウム缶を米国内で調達する必要があることが分かりました。MDRSの半径250km以内に大きな都市はありません。中継基地のコロラド州グランドジャンクションで購入可能かどうか調査する必要があります。


つづく
 
つくば医工連携フォーラム2016に参加してきました。
特別講演「有人火星探査の医学的リスクと医工連携の必要性」(村井正JAXA参事)について、私のメモをもとに簡単に報告します。

まず、NASA Design Reference Missions for Flexible Pathを示し、ISS、月と比較した場合の有人火星探査の医学的な特徴を次のようにまとめていました。

・桁違いの地球からの距離
・帰還困難性
・多量の放射線被ばく
・少人数閉鎖環境によるストレス
・急病
・異文化
・未知のリスク
※量的のみならず、質的に異なるリスク



以下は、予稿集に掲載されている概要からの引用です(つくば医工連携フォーラム2016)。
有人火星探査を想定した場合、医学的観点から、これまでの半年程度のISS滞在と比較して、困難な課題が存在する。
・火星往復のための宇宙船、火星滞在施設の物理的制限
・地球から人類未経験の距離を長期にわたって離れることの物理的心理的影響
・長期間の無重力環境の後の火星上の1/3G環境への遭遇
・Van Allen帯の外に長期間出ることによる多量の放射線被ばく

次に、有人火星探査のような深宇宙での長期滞在の医学的リスクの軽減について

NASA HRP Path to Risk Reduction for a Planetary Missionを示し、この報告書は、ISSの運用を2024年まで延長すれば、現在アンコントロール(赤)な要因の多くを部分的コントロール(黄)にできると主張している。(ただし、演者はこの内容を懐疑的に見ていました)

*この報告書でも2024年時点でも、行動コンディショニング、飛行中の医療能力に加え、や放射線の被ばくについては2024年でもアンコントロールである。

次に、数名の宇宙飛行士による往復3年程度の火星探査ミッションを仮定すると、
南極基地などの類似環境における統計から推定すれば、ミッション中に生命に危険を及ぼす可能性のある緊急事態が起こる可能性は十分高い。

これまでのISSでの医学イベント(対象は日本人だけではない)を検証したところ、
一般的な病気は不整脈である。その他には、泌尿器?、歯科領域が想定される。不整脈は、過去にロシア人宇宙飛行士の例がある。緊急帰還リスクは0.1%以上と想定される。

(この部分に計算の根拠となる数字がありましたが、きちんと記録できませんでした。下記の参考文献をもとに自分でもきちん計算します。)
南極でのデータを例に計算すると、7名、2.4年で計算した場合、有人火星探査では
3-6回のうち1回の緊急帰還リスク、
10年で1人自殺する可能性がある。

まとめ
有人火星探査のためには、個別のリスクつぶしではなく、医学と工学の有機的な連携による医療システムの開発が必要である。

引用文献
NASA’S EFFORTS TO MANAGE HEALTH AND HUMAN PERFORMANCE RISKS FOR SPACE EXPLORATION, October 29, 2015, Report No. IG-16-003
NASA JSC, Evidence Report:Risk of Adverse Cognitive or Behavioral Conditions and Psychiatric Disorders, August 24, 2015

 
昨日、THE MARTIANを視聴しました。
アレス3(アキダリア平原)からアレス4(スキャパレリ盆地)への3200キロの遠征で起こったトラブルの部分(下の図の青い線の右下半分)がカットされていることに気が付きました。

インタビュー映像で、監督が言っていました。最初、脚本家は原作に忠実に原稿を作成してくれた。ただし、それを映像化すると、4時間の映画になってしまう。結局、マーク・ワトニーが生き延びるために試行錯誤している部分や、最後の大遠征の一部がカットされたのだと思います。

また、専門家しかその意味に気が付かないような映像もところどころにあります。映像に解説がないので、一般の方はその意味に気が付かないでしょう。小説には、それらの意味がわかるように説明されています。映画をわかりやすくするために、細かい部分を簡略化することはあるでしょう。

そして私が一晩考えたのが、「小説を読むのが先か、映画を見るのが先か?」
小説を先に読まない方がいいと思います。1つ1つ問題を乗り越えていく部分が映画ではかなりカットされているので、小説を先に読んでしまうと純粋に映画を楽しめなくなるからです。(あくまで個人的な意見ですが)

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アレス3からアレス4に至る範囲の火星地図(西経30度~東経30度、北緯40度~南緯10度、線の間隔は10度)
*NASA/JPL Mars Global Surveyorに搭載されている高精度レーザー高度測定器で得られた1ピクセルあたり1/128度の高密度地形データを利用して、著者がカシミール3Dで作図。

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1月22日(金)つくば医工連携フォーラムに参加するついでに、閉鎖環境適応訓練設備を見学しようと計画していましたが、最近の「宇宙飛行士の精神心理健康状態評価手法の高度化を目指す有人閉鎖環境滞在研究」被験者募集のニュースの影響か、予約が取れませんでした。しかたなく1月15日(金)15時からの見学を予約し、1週間早く筑波宇宙センターに行きました。参加者は30人くらいいました。

宇宙兄弟で取り上げられ一般に知られるはるか昔、15年以上前に学会で長期閉鎖環境が被験者の特性及びストレス対処法に与える影響についての話を聞いてから存在を知っていましたが、一度も見学していませんでした。(日米ロの閉鎖居住実験施設を訪問し、実験にも参加しているのに、今までJAXAの施設を訪問していませんでした。)

見学ツアーは約70分で、JAXAの紹介ビデオ、「きぼう」運用管制室、宇宙飛行士養成アリアと続きます。宇宙飛行士養成アリアの一部を以下に紹介します。

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閉鎖環境適応訓練設備模型(縮尺1/20)


平面図(JAXAホームページへのリンク) 上の模型の写真とちょうど対応しています。

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閉鎖環境適応訓練設備

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奥のモジュールが見えるように撮りました

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ヘッドダウンベットレスト 頭を下に6度傾けた状態で横になることで、宇宙にいるのと同じ状態を作り出します。

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宇宙飛行士が宇宙で生体計測などに使う機器類です。

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宇宙飛行士の若田さんがISSで着ていた衣類です。

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若田さんの靴です(WAKATAと名前も書いてあります)。つま先が足袋のように分かれています。紐のかけ方が普通のシューズより簡単です。

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こちらは宇宙食の展示です。

さて来週は、筑波の産総研に 特別講演「有人火星探査の医学的リスクと医工連携の必要性」村井正 参事 JAXA有人宇宙ミッション部門 宇宙飛行士運用技術ユニット 宇宙医学生物学研究グループ を聴講しに行きます。



 
マーク・ワトニーが生存できたシナリオについて小説をもとに計算しました。よくわからない部分については私が設定を仮定しています。すべての物質を質量に換算して、Sol 0-504(MAV到着)までを計算した結果の一部を以下に示します。設定条件を変更すればまた違った結果になります。あくまで生存できた一例だと考えてください。

計算の前提条件
・水初期貯蔵量:300L(液体)
・酸素初期貯蔵量:50L(液体)
・二酸化炭素初期貯蔵量:40L(液体)
・MAVでの二酸化炭素の生産:0.5L/h(液体)
・ヒドラジン:292L(液体)
・ジャガイモ:1500kcal/日分を生産・・・100g当たり76kcal、たんぱく質0.1g、脂肪1.6g、炭水化物17.6g、繊維1.3g (生化学量論でモデル化)
・ジャガイモ200日分を収穫
・HABでは、水再生(再生率90%)、二酸化炭素回収・還元、酸素生産
・ローバでは水、二酸化炭素の回収再生なし
・EVAでは水2L/Sol使い捨て(かなり理想的な数値に設定)
・爆発による反応を考慮してない

主なイベント
Sol 32 火星大気からの二酸化炭素生産、水の生産開始
Sol 72 Pathfinderへ向けHAB出発
Sol 94 HABへ帰還
Sol 119 ジャガイモ全滅、200日分のジャガイモが残る
Sol 449 HABシャットダウン、Ares4 MAVに向けてHAB出発
Sol 504 MAV到着

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残存食料の変動
1500kcal/Solと考えて何日分の食料が残っているかを示している。Sol 119で200日分の食料(じゃがいも)を確保している。

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酸素、二酸化炭素の変動
Sol32からCO2の生産をMAVで開始し、ヒドラジンのH2を利用して水を生成する。植物の光合成により二酸化炭素が減り、酸素が増える。ジャガイモが全滅したSol119以降は、装置を利用した二酸化炭素の回収・還元、酸素生成、水再生のみを実施する。

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水の変動
水初期貯蔵量300Lに、さらに水313Lを生産する。生命維持用の50Lを除き植物栽培に利用する。ただし、蒸散水を回収して水を再利用する。ローバでの遠征中、EVA中は、二酸化炭素や水の回収は実施しない。

 

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