昨日、THE MARTIANを視聴しました。
アレス3(アキダリア平原)からアレス4(スキャパレリ盆地)への3200キロの遠征で起こったトラブルの部分(下の図の青い線の右下半分)がカットされていることに気が付きました。

インタビュー映像で、監督が言っていました。最初、脚本家は原作に忠実に原稿を作成してくれた。ただし、それを映像化すると、4時間の映画になってしまう。結局、マーク・ワトニーが生き延びるために試行錯誤している部分や、最後の大遠征の一部がカットされたのだと思います。

また、専門家しかその意味に気が付かないような映像もところどころにあります。映像に解説がないので、一般の方はその意味に気が付かないでしょう。小説には、それらの意味がわかるように説明されています。映画をわかりやすくするために、細かい部分を簡略化することはあるでしょう。

そして私が一晩考えたのが、「小説を読むのが先か、映画を見るのが先か?」
小説を先に読まない方がいいと思います。1つ1つ問題を乗り越えていく部分が映画ではかなりカットされているので、小説を先に読んでしまうと純粋に映画を楽しめなくなるからです。(あくまで個人的な意見ですが)

20160120-1.png
アレス3からアレス4に至る範囲の火星地図(西経30度~東経30度、北緯40度~南緯10度、線の間隔は10度)
*NASA/JPL Mars Global Surveyorに搭載されている高精度レーザー高度測定器で得られた1ピクセルあたり1/128度の高密度地形データを利用して、著者がカシミール3Dで作図。

Kindle版


上下巻別






 
マーク・ワトニーが生存できたシナリオについて小説をもとに計算しました。よくわからない部分については私が設定を仮定しています。すべての物質を質量に換算して、Sol 0-504(MAV到着)までを計算した結果の一部を以下に示します。設定条件を変更すればまた違った結果になります。あくまで生存できた一例だと考えてください。

計算の前提条件
・水初期貯蔵量:300L(液体)
・酸素初期貯蔵量:50L(液体)
・二酸化炭素初期貯蔵量:40L(液体)
・MAVでの二酸化炭素の生産:0.5L/h(液体)
・ヒドラジン:292L(液体)
・ジャガイモ:1500kcal/日分を生産・・・100g当たり76kcal、たんぱく質0.1g、脂肪1.6g、炭水化物17.6g、繊維1.3g (生化学量論でモデル化)
・ジャガイモ200日分を収穫
・HABでは、水再生(再生率90%)、二酸化炭素回収・還元、酸素生産
・ローバでは水、二酸化炭素の回収再生なし
・EVAでは水2L/Sol使い捨て(かなり理想的な数値に設定)
・爆発による反応を考慮してない

主なイベント
Sol 32 火星大気からの二酸化炭素生産、水の生産開始
Sol 72 Pathfinderへ向けHAB出発
Sol 94 HABへ帰還
Sol 119 ジャガイモ全滅、200日分のジャガイモが残る
Sol 449 HABシャットダウン、Ares4 MAVに向けてHAB出発
Sol 504 MAV到着

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残存食料の変動
1500kcal/Solと考えて何日分の食料が残っているかを示している。Sol 119で200日分の食料(じゃがいも)を確保している。

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酸素、二酸化炭素の変動
Sol32からCO2の生産をMAVで開始し、ヒドラジンのH2を利用して水を生成する。植物の光合成により二酸化炭素が減り、酸素が増える。ジャガイモが全滅したSol119以降は、装置を利用した二酸化炭素の回収・還元、酸素生成、水再生のみを実施する。

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水の変動
水初期貯蔵量300Lに、さらに水313Lを生産する。生命維持用の50Lを除き植物栽培に利用する。ただし、蒸散水を回収して水を再利用する。ローバでの遠征中、EVA中は、二酸化炭素や水の回収は実施しない。

 
******最後の記事は、本の内容から離れます*****


米国でThe Martian(邦題:オデッセイ)が公開された日、一人のNASAの研究者から私達に1通の電子メールが発せられた。

私達とは、NASAの各センターにいる研究者、NASAのコントラクターのエンジニア、米国の大学研究者、そして唯一の日本人の私、40名くらいを意味しています。

タイトルは Let’s do the math (映画の中でマーク・ワトニーが発する言葉)

1年くらい前に買った「火星の人」も読んでなかったし、日本で公開していない映画も見ていないし、その時は意味が良くわかりませんでした。

「火星の人」を読み終わって、このストーリは、有人宇宙探査の生命維持を専門にする研究者にとって、面白い計算例題になることに気が付きました。小説中には具体的な数字がたくさん出てきます。

方法や数字が述べられているから、なおさらこのSF小説を荒唐無稽なものに感じるのですが・・・、惑星間移動、火星居住、火星表面移動の3つの局面すべてを含んでいるので、この3つを専門にする私にとっては非常に面白い題材になります。

早速、計算を始めるとしようか・・・・

 
Sol 505
MAVに入ってシステムチェックを済ませ、起動。MAVが生命維持環境になるのを待つ。
MAVには通信回線があり、久しぶりにNASAとの通信が可能なる。
水を無駄にするな、尿を捨てるなとNASAから指示が届く。理由は、この後の作業に大きく影響するからです。

MAVは火星の低軌道にのるように設計されている。それに必要な速度は4.1km/s。しかしヘルメスのフライバイは5.8km/sです。ヘルメスに到達するためにMAVを軽くする必要があります。同時に、燃料を何とかして増加させる必要もあります。

JPL(ジェット推進研究所)からの指示書によると以下のようになります。
MAVは元々19397kgの燃料を火星で生産できる水素を持ってきている。水素1キロで燃料13キロが製造できます。ワトニーが持っている550リットルの水を電気分解して60キロの水素をつくる。その水素から780キロの燃料を作る。これで300キロのペイロードを増やせる。
*水電気分解とサバチエ反応を利用したメタンの生成だと思いますが、生産量が合わない。生産効率の問題か?

打ち上げ重量は12600キロ強、燃料が増えても7300キロしか打ち上げできない。そのためMAVから5000キロ以上取り除く案がJPLから送られてきた。
・ 火星サンプル500kg
・ 乗客が6人から1人に減った(スーツと装備を含む)500kg
・ 加速カウチ5つ、重要でないギア、医療用キット、工具キット、船内装備、ストラップ、その他固定されていないもの。
固定されているものでは、生命維持系全部(EVAスーツを着用するため不要)・・・タンク、ポンプ、ヒーター、エア・ライン、CO2吸収システム、船殻内部断熱材
MAVをヘルメスから遠隔操縦するためEVAスーツ着用でも大丈夫らしい(通常は無人で遠隔操縦着陸)。有人宇宙船を遠隔操縦した前例はない。

・5つあるバッテリーうち3つ、予備の電力系統、予備スラスター、第二、第三コム・システム(バックアップコムなしで遠隔操縦)。もし上昇中にコム・システムが壊れたら、再補足に時間がかかりすぎて手遅れ(その場合には失敗)、バックアップシステムは不要。

・ 船首エアロック400kg、窓、船殻パネル19 (穴をハブのキャンバス地でふさぐ)
・ 与圧室の奥のパネル、補助燃料ポンプ、第一ステージエンジン

失敗の想定確立4パーセント


Sol 548
ヘルメス側でも人工重力を作り出すための宇宙船の回転を止めて、捕獲の準備を完了
MAV側準備完了、打ち上げは明日。
誤差は予定ルートの1メートル以内、予定速度の2cm/s以内
これまでの改造により打ち上げ時のGは12ぐらいになるようです。

Sol 549
世界中が見守る中、MAV上昇、メインエンジン停止、(目標高度よりかなり低いらしい、速度問題なし)
ヘルメス側では、レーダーで周期的に位置確認、最終軌道を計算

計算結果、捕獲速度は11m/s、捕獲距離は68km、捕獲までの時間は39分12秒

ここからは、イオンエンジン、姿勢制御スラスター、EVAスーツのグローブに穴(リークさせて推進)、ヘルメスVAL爆破で29m/sの加速・・・
注)VAL: Vehicular Airlock、小説には書いてありませんが船外活動用のエアーロック

最終的に、ヘルメスとMAVの 距離は22メートル以内、相対速度は12m/sに

最後は、有人起動ユニットMMU(Manned Maneuvering Unit)を利用して加速、テザー(紐を利用)も併用

速度ゼロ、捕獲

2人がエアーロックに、ドア閉鎖、(上昇中Gで失神、肋骨2本骨折)

ヒューストン、そして世界中で歓声・・・

ミッションデイ687(地球時間、火星時間Solでのカウント終了)

 
20151228-1.png
アレス3からアレス4までの旅程(直線距離で3200キロ)
注)この図は、私が小説にある情報をもとにGoogle Marsの火星図に書き込んだものであり、正確さについては保証できません。

Sol 458
出発10 Sol目、マウルス谷に到着、2回目のエアー・ソル(酸素供給器稼働に電力を使う日)

Sol 462
マウルス谷の中間あたり
ナビゲーションには、緯度経度を利用している。フォボスの沈む時間を利用して経度を計算(特別な計算式があるらしい)し、手作り六分儀を利用して夜にデネブ(地球の北極星みたいな星)を観測して緯度を求める。

Sol 466
アラビア大陸の端に到達、これからはクレータがたくさんある地域。
高度を比較している。ハブがあるアキダリア平原(マイナス3000m)、アラビア大陸(マイナス500m)、2500m上ってきた。

Sol 468
ラザフォード・クレータとトルーヴェロ・クレータの間を抜ける。地図上は1440キロ走行。

Sol 474
マルト・クレータの縁にぶつかる。走行を終了し、夜になるのを待ってデネブを観測し位置を確認。

Sol 475
マルト・クレータに正面からぶつかったことを確認。どちらに迂回しようかを決めるために、クレータの縁のてっぺんまで1キロのEVAを行う。東西の視界の違いから砂嵐の中にいることに気が付く。数日前から太陽電池の効率が落ちていることからもその可能性が高い。砂嵐につかまると十分な電力が確保できず、死に至る危険性がある。

Sol 476
80キロの間の3か所の同時刻の太陽電池のワット量を比較し、嵐の輪郭を推測することを考えつく、手持ちの機器で簡易的な計測器具を作成。

Sol 477
太陽電池パネルの効率が97%から92.5%に落ちていることから嵐が東から西へ移動している可能性が高いことをつかむ。

Sol 479
正午時点で、3点の太陽電池パネルの効率ロスが、北12.3%、中間地点9.5%、南6.4%であることがわかる。嵐は北側にあり、西に進んでいることはわかっている。南東に行けば嵐を回避できる。

Sol 484
嵐から抜け出した。嵐を避けているうちに540キロも南下し、メリディアニ大陸に入っている。アラビア大陸のでこぼこした地形よりは少し運転しやすい。残る距離はあと1030キロ。

Sol 497
スキャパレリ・クレータの入り口に到達。縁と盆地の底との差は1.5キロ、スロープの長さは45キロ以上、傾度2度。何の問題もないはずだったが、ローバは斜面を転がり横転。トレーラ(生命維持系積載)との接続が分断され、貯蔵系の生命維持に自動切り替えられる。MAVまであと220キロ。

Sol 499
ローバ復旧

Sol 500
トレーラ復旧

Sol 502
安全確保のために、残りの45キロのスロープでは、平均時速を25キロから5キロへ減速
ついにスキャパレリ盆地の中へ到達

Sol 503
63キロ走行、あと148キロ

Sol 504
90キロ走行、あと50キロ
ついにMAVの信号を受信(NASAはアレス4のMAVをアレス3のハブのふりをさせ誘導信号を発信させた)

そしてスキャパレリの南西部で高さ27メートルのMAVを発見。


 
中国の酒泉から打ち上げられた追加のサプライは、無事、ヘルメスにドッキング完了した。

Sol 376
ローバの改造がついに完了

Sol 383
火星全体の大まかな衛星地図をもとに3200キロの行程を考える。
最初の650キロ、アキダリア平原をスムーズに進み、クレータだらけのアラビア大陸に入る。最初のマウルス谷は、昔、川だったため、比較的進みやすい。つまり、アキダリア平原とマウルス谷の間の1350キロは比較的なだらかな地形だ。あとのスキャパレリに下っていく1850キロが厳しいものになるだろう。

Sol 390
ローバの準備完了
・ 食料:ジャガイモ1692個、ビタミン剤
・ 水:620リットル
・ シェルター:ローバ、トレーラー、ベットルーム
・ 空気:液体酸素14リットル、液体窒素14リットル
・ 生命維持:酸素供給器、空気調整器、緊急時用に使い捨てCO2フィルター418時間分
・ 電力:蓄電量36キロワット時、太陽電池パネル29枚
・ 熱源:1400ワットのRTG、空気調整器の戻ってきた空気を温めるための蓄熱ヒーター、予備としてローバ搭載の電気ヒーター

Sol 434
実施試験開始

Sol 444
5 Solの連続試走行験で、平均93キロ/Sloを達成、(地形が平らだから予定よりもいい数字が出た)

Sol 449
ハブ 最終シャットダウン
いよいよスキャパレリに向かって出発

同じころ、ヘルメスでは、原子炉の出力が低下する問題が発生していた。外部の冷却翼に(宇宙船からわずかに漏れる)空気やチリが付着しているようだ。本来、ヘルメスは、ミッションごとにオーバホールするが、今回はそれなしで、ミッションを396日から898日に延長したため、いろいろ不具合も出てくるだろう。



 
Sol 192
スキャパレリクレーターまでの3200キロの遠征の準備を始める。
前回のパスファインダーまでの遠征は18 Solかかった。
今度の遠征は、移動に50 Sol、MAV改造に45 Solの95 Solを想定、ほぼ100 Sol必要。
ヘルメスのフライバイは、Sol 549なので、Sol 449までには出発しなければならない。あと257 Solで長距離遠征用にローバを改造をしなければならない。

改造内容
与圧スペースに、空気調整器、酸素供給器、水再生器の3つ生命維持装置(ビックスリー)を積載
食料、水、太陽電池、予備バッテリー、工具、予備部品、パスファインダーを積載
ローバにトレーラを連結
生命維持装置とローバへのエネルギーを確保するための改造
改造にトレーラの炭素複合材の側壁にドリルで穴あけ(759個必要)

Sol 196
ドリルが動かない。ドリルを作業台に立てかけたことにより、パスファインダーに過電流が流れる(50mAのところを9000mA流れる)。パスファインダー死亡(地球との通信手段を失う)。

Sol 197
電力計算
ローバのバッテリー18キロワット時
酸素供給器44.1キロワット時/Sol
ビックスリー合計で69.2キロワット時/Sol (このうち水再生は3.6キロワット時/Sol)
水は備蓄620リットル、一日3リットルを利用して200Solもつ、残り100 Solをどうするか?水再生機を持参しないで、重量と電力を節約。
6人用の酸素供給器、一人分の処理ならば、電力は1/6になる。44.1から7.35キロワット時/Solに減らせる。

Sol 199
酸素供給器、空気調整器への電力供給方法を見つける。
空気調整器は常時運転だが、酸素供給器は四六時中動かす必要はない。液体酸素50リットル(2タンク)、気体に戻して5万リットルを利用すれば85 Solもつ。
酸素が足りなくなったら1日野営して全電力をためてCO2を処理する。
前回の遠征と同じようにRTGも熱源として利用。

Sol 200
パスファインダーミッションでは、18キロワット時で80キロメートル移動できた。今度は荷物が増えたので同じようには移動できない。
水620キロ、じゃがいも200キロ、太陽電池増設、バッテリー増設、空気調整器、酸素供給器、おおよそ1200キロと推測
走行実験の結果57キロ/Solしか走れず
3200キロ/50キロ=64 Sol(移動時間だけ、酸素供給器に電力を使わせる時間も必要)
酸素供給器が18キロワット時/Solを利用して2.5 Sol分の酸素を生産可能、2-3 Sol毎に止まって酸素供給器を稼働する必要がある。結局64Solが92Solに延びる。

Sol 208
ローバとトレーラの屋根に、太陽電池パネル21枚、側面に7枚をつける。

Sol 211
ここまでの改造で、太陽電池パネル29枚、36キロワット時の蓄電量を確保し、1 Sol当たり100キロ移動できる目途が立つ。

 
ワトニーへの緊急サプライミッションが計画された。Sol 584までに火星へ送り込む必要がある。残された時間は475日、火星までは414日かかる。48日間で機体アイリスを製造することになった。しかし結局、期間短縮のために点検とテストを省いたことにより、ボルトの傷を1つ見逃し、打ち上げ失敗に終わる。

中国国家航天局が、太陽探査機打ち上げのためのブースター<タイヤン・シェン>を利用すれば、火星軌道へペイロード941キロを419日間で投入できることを米国へ提案。これと引き換えに中国人宇宙飛行士を火星へ送り込んでもらおうとしています。

そこから中国の<タイヤン・シェン>を利用したアイリス2の準備が始まる。
Sol 624にワトニーに食料を届けることが可能、これは食料が尽きた6週間後と予想される。

密かに、プロジェクト・エルロンド(リッチ・パーネル案)が始まる。
宇宙工学者リッチ・パーネルがヘルメスを火星に戻す方法を発見した。Sol 549に火星をフライバイすることが可能。アイリスはポイント推進器を利用しているが、ヘルメスは常時推進のイオンエンジンを利用しているから、このようなことが可能になると説明しています。

ヘルメスは、地球帰還のための減速の代わりに、加速をし、地球の重力を利用してコースを調整する。そして旅程延長分の食料を積んだサプライ機をピックアップし、火星へ向かい、Sol 549に到着。火星フライバイ後211日で地球に帰還。(ミッションは533日延びる)
この方法の大きな問題は、ワトニーが自力で現在の位置から3200キロ離れたアレス4のMAVまで移動する必要がある。(MAVで火星重力圏外に移動し、フライバイするヘルメスにピックアップしてもらう)
*サプライ機のピックアップと3200キロの火星面移動は難易度が高すぎないか?


ここで2つの選択肢が出そろう。
・アイリス2(激突型着陸機)で食料を送る。
・ヘルメスで救出する(リッチ・パーネル案)。

両プラントも<タイヤン・シェン>を利用するが、開発期間短縮のため着陸機構を持たないアイリス2の成功率は30%程度である。ヘルメスで救出する成功率の方が高いが、他の5人を危険にさらす欠点がある。

NASAは、アイリス2案の実行を決定するが、フライトディレクターのミッチーが勝手にヘルメスにリッチ・パーネル案を送り、それを読んだヘルメスのクルーは、その案の実行を決定する。



 
ワトニー救出プランが策定され、希望が見えてきたとき、ついに、(ワトニーが死んだと思い彼を火星に残してきた)ヘルメス(火星地球移動船)の他のクルーにワトニーが生きていることが知らされる。

Sol 114
NASAが、アレス4のMDVの重量の問題をクリア。ワトニーは通信システムのバックアップ用にモールス信号の学習を開始。

Sol 115
来年のホーマン遷移軌道ウィンドウに打ち上げ、約9か月後に火星に到着予定(Sol 856)

***過去のアレス3の物資の事前補給について解説****
アレス3のプリサプライ機は、ホーマン遷移軌道ウィンドウで14日間連続して打ち上げられた。プリサプライ309は3日目に打ち上げられ、途中わずかな軌道修正を行い、251日後に火星に到着。数回のエアロブレーキ、パラシュート、バルーンを利用し着地、そして23ヶ月待機した。
プリサプライ309の内訳は、12個のハブ・キャンバス・コンテナ、AL102(ハブ・キャンバス・シート))

*人間6人が火星に長期滞在するためには、2000トンくらいの物資(推進剤ににもよるが、ほとんどは燃料)を地球低軌道に打ち上げる必要がある。仮に130トンクラス(2015年現在そのようなロケットは存在しない)のロケットで14回に分けて打ち上げた場合、1820トンが打ち上げ可能。また現在、短期間に14回連続打ち上げができるような射場は世界のどこにも存在しない。
*火星滞在には、打ち上げウィンドウ(軌道)の選び方によって、長期滞在型(conjunction-class mission)、短期滞在型(opposition-class mission)がある。この小説でアレス3は31日しか滞在しないので、opposition-class missionでしょう。

*ハブは、金属製の構造物ではなく、軽量化のため、特殊なキャンバス(帆布)を利用した構造であることがわかる。アレス3ミッション火星滞在31日の耐久性しか想定されていないことが、この後のトラブルにつながる。

Sol 117
水再生機の調子がおかしい。NASSAの指示を無視して、チューブの詰まりを修理。

再び大きな危機
Sol 119
ハブに裂け目が生じ、爆発し、様々なものが飛ばされる。ワトニーはエアーロックの中にいて、ハブから55メートル離れた場所まで飛ばされる。エアーロックのリークを修理し、エアーロックを転がして、ハブから10メートルのところまで戻る。壊れた宇宙服のヘルメットを応急修理して、ハブまで他のクルーの宇宙服を取りに行く。とりあえずヘルメットのみ入手しローバに退避。新しいヘルメットを装着してハブに新しい宇宙服を取りに行く。

Sol 122
ハブの農場が全滅したことを知る。
収穫寸前のジャガイモ2000個を回収できそう。Sol 200日分の食料に相当。
つまり600日分(備蓄食料400日+ジャガイモ200日)の食料しかない。食料の補給はSol 856日の予定。

さあ、どうする?

 
Sol 97
NASAが、パスファインダーからの信号を受信

通信手段(第一段階)
パスファインダーの360度回転するカメラの動きを利用してASCII(16進法)でデータを送る。直接文字を送らないのは、27種類の文字(アルファベットとクエスチョンマーク)を360度(360度÷27=13度)の動きで送ると不正確になるため。

注釈 ASCII:コンピュータで使われている文字コード

交信開始 ASCIIで地球から質問が送られ、答えを紙に書いてカメラに向け、地球から読んでもらう。
ASCIIで綴れ
STATUS(現況)
HOWALIVE(生存の経緯)
CROPS?(作物?)
WESAW SATLITE(衛星で見た)
BRINGSJRNROUT(ソジャーナを外に出せ)
SJRNRNOTRSPND(ソジャーナ、応答せず)
WORKINGONIT(検討中)


通信手段(第二段階)
パスファインダーには2つの通信手段がある。
1. 地球と交信するもの
2. ソジャーナと交信するもの

2をアレス3のローバの周波数で送信できるように変える。

ジャック・トレヴァー(ソフトウエアエンジニア)が登場
パスファインダーからローバへ送信できるようにはできる。しかし、ローバに受信させたり、ローバからパスファインダーに返信させたりできない。

ローバのソフトウエアをワトニに書き換えてもらうことを提案し、
ソフトウエアを開発中(20メガバイト、送信するのに3年ぐらいかかりそう)
ジャックが短時間にソフトエアを送る方法を考案し、ワトニに作業方法を教える。


Sol 98

新しい通信手段が確立(長文でのやり取りが可能になる)

NASAからワトニーへ
 「MDVを、短時間、水平飛行させる方向で調整中
 アレス4到着までの食料を送り込む予定であることを伝える」

ワトニーからNASAへ
 「食料生産により、Sol 900まで食料が持ちそうであることを伝える」

 
NASA 衛星コントロールのミンディ・パークが、火星周回衛星からの画像とアレス3のミッションログを照らし合わせて確認し、誰かがアレス3の地点にいるのではないかと推測する。
・ 非常用のポップアップテントが2つセットされている。
・ 強風が吹いたのに太陽電池がきれい。
・ ワトニーの遺体が見つかっていない。
追加の情報として、ローバが動いている、MDVが解体されていることを挙げています。

NASA広報統括責任者のアニーが、現時点でワトニー宇宙飛行士が生存していることを発表した。

Sol 61-96
ワトニーが通信設備を確保するためにローバを使って移動する準備を始める。
移動先はアレス4の着陸地点スキャパレリ・クレーター(アレス3の着陸地点から3200km離れた地点)
機材はミッションの前に地球から運ばれているため地球帰還に必要なMAV(通信機もあり)はそこにある。
ローバ:フル充電で35km走行可能、9000ワット時のバッテリーが搭載
ローバ1のバッテリーを外してローバ2に取り付け、2倍の容量に改造し、走行距離を2倍にした。
冷暖房に400ワット消費するため1日24時間で9800ワットを消費してしまう。
ローバは1キロ走行するのに200ワット時の電力を消費する。
もしすべての電力をすべて走行に使えれば一日で90km進める。
最短で35日でスキャパレリ・クレーターに到着可能か?(実際には50日くらいかかるだろう)
電力の補充に、ハブにある太陽電池パネルの利用を検討する。
火星の日照時間は13時間、太陽光は1平方メートル当たり500-700ワット(地球は1400ワット)

走行実験開始 シリウス1~4

シリウス1
フル充電したバッテリーと屋根の太陽電池の電力でどこまで走れるか実験する。
実験失敗:同じところを折り返し運転していたので、固まった道路になり、走行効率が良くなりすぎた。電力を節約するためにヒータを利用しない走行では、寒すぎて実験の継続が不可能になった。

解決策
注釈: RTG(放射性同位体熱電気転換炉)プルトニウム利用
太陽電池が利用できなくなった場合のバックアップとしてRTGを利用、1500ワットの熱発生。

シリウス2
4km離れた場所(正確な場所は不明)に埋めてあるRTGを探す。サドルバックを利用したバッテリー増設と太陽電池パネルを装備したローバ2の安定性を試験する。
Sol 69 成功

シリウス3
シリウス1をもう一度実行
Sol 70 3時間27分で81km走行

シリウス4
アレス4まで行くための20日間の実地調査旅行
電力とバッテリー充電の問題は解決
食料問題解決済み
水2 L/日
酸素供給機を持っていく必要があるが、大きいため不可能、O2タンクとCO2フィルタを利用することを決定(非再生系)
O2タンク1つは7日分の酸素、ハブの25 L液体酸素タンクを2本利用(49日分に相当)
※NASAが月面を想定して検討した遠征プランだと、移動型電力供給機、移動型物資補給機、移動型ハブなどで一団を形成していたが、ローバ一台で長期遠征は本当に可能なのか?

ハブを不在にする間のジャガイモの栽培プランも準備
空気調整期と酸素供給器を止めて、水1トン、CO2の10 Lをハブ内に放出
※3週間これでうまくいくのか?

NASAではMDVを改造して、ワトニーを救出する方法を検討している。
また、衛星画像からワトニーがローバで遠征していることもNASAは確認済み
さらに、目的地が、パスファインダーの着陸地点であることも把握。

ハブのナビ・ビーコンは40kmしか届かないため、遠征した場合にはナビゲーションの方法が問題になる。

アレス3の位置からアキダリア平原を抜けて、パスファインダーの場所までは約800km

Sol 82 ついに到着

Sol 83 パスファインダー着陸機(地球と通信できる)をローバに載せる

Sol 94 ハブに帰還、じゃがいもは元気に育っていた。

20151225-1.png
アレス3(アキダリア平原(北緯31.2度、西経28.5度))、アレス4(スキャパレリ―・クレーター)、🎈パスファインダーの位置関係 ※アレス3とアレス4の距離は3200km、アレス3とパスファインダーの距離は800km



 
注釈Sol: Mars solar day(24時間37分)

タイトルをマーズ・オデッセイと名付けましたが、内容は小説「火星の人」アンディ・ウィアー(ハヤカワ文庫)にもとづいています。小説の内容から技術的な背景を考察していきます。

マーク・ワトニーは、火星に一人取り残され、限られた資源の中で、次のミッションのアレス4到着まで生き延びなければならない。地球まで交信可能な通信機はすべて壊れている。

アレス4到着まで Sol 1387(地球時間1412日)

20161224-1.png
各機材や装置の関係と物資の残量

Sol 31
食料 6人 x 50日分 = 300 日分
一日に食べる分を3/4に減らして(1500kcal/人) 400日分として利用
食料パック 4年分以上のたんぱく質、ビタミン
不足する食料をハブ内で耕作する。作物の種は、ジャガイモ、豆類 がある。マークはカロリーの高いジャガイモの栽培を決定。
※普通はジャガイモではなく栄養バランスの良い大豆の生産をするはずである。収穫後の加工はジャガイモの方が簡単か?ただし、どちらにしても非可食部の処理はどうするのか?
利用できる面積は126 m2 (ハブ92 m2、ベッド2x5 m2、実験用テーブル2x2 m2、ポップテント10x2 m2)
水250 L (300 Lから生活に必要な50 Lを除く)
栽培に必要な地中の水 40 L/m3
水250 Lで耕作できるのは 62.5 m2

150 kg/400日(115500 kcal、76日分)、連作で22000kcal(15日分)追加、約90日分

さらに水があと250L必要なので、
MDVに装備されている火星大気からのCO2生成装置を利用してCO2を生成
0.5 L/h x 24 h x 10 = 125 L (MDV 10 Lタンクを20 hで満タン)
空気調整器 空気中からCO2を回収しO2を生成

水を生成するには水素が必要である。水素はMDVの燃料タンクのヒドラジンからIr(イリジウム)触媒を用いて生成、MDVには292 Lのヒドラジンが残っている。(水600L程度を生産可能)
N2H4 -> N2 + 2H2
この水素を利用して
2H2 + O2 -> 2H2O (燃焼)ここで爆発

※火星で水の回収ができるISRU(現地での資源生産装置)や、サバチエ第二反応まで可能な装置を持ち込んでいれば、別の対応が可能

次に続く

 

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